時々ここで書く記事に窮することがあります。今回もそれが起こりましたので、合気道の技術的な話をしてみします。
合気道の稽古もある程度のレベルになると「多人数掛け」ということをやることがあります。私の師匠はあまりその稽古をやらせませんでしたが、何かの時に「相手が何人いても一人を相手にしているのと同じこと」というようなことを言われた記憶があります。今思うと、多人数掛けでは、動きの中で技を掛けざるを得ず、技の精度が低下するのを嫌がられたのかも知れません。
「相手が何人いても一人を相手に」という言葉についてはいろいろな解釈が成り立ちますが、一度にいっぺんに襲いかかってくることはないので、一人ずつ順に相手をすれば良いとも取れます。実際YouTubeの映像で何人かの師範の多人数掛けを観てみますと、それが納得できます。では、何人かに一度に身体の一部を掴ませてから技をかける場合はどうか、と言いますと、この場合も最初に一人を動かして全体に動きを伝えていくようなやり方だと観てとれます。
ただし、いろいろ細かなコツもあります。数人の相手に囲ませている場合には前方の相手にこちらから間合いを詰めて行き、技をかけます。そして、当然ながら極め技ではなく、投げ技を掛け、投げる時には別の相手の一人に向けて投げつけます。すると、その瞬間に相手の数がマイナス２になるという計算が成り立ちます。相手の数を減らすことで対処がし易くなります。もう一つのコツは動きを止めないということです。静止しているものは掴みやすいのですが、動いているものは殴ることさえ簡単ではないからです。絶えず前方に動き、相手を探して一人ずつ投げていくというわけです。さらなるコツは、投げ技をした後も体勢が崩れにくい技を選ぶわけです。すかしながら側方に相手を投げるとか、入身とかがメインになります。相手の一部を掴むような技はその瞬間自分の身体も固着しますから、別の相手に掴まれやすくなるのです。いろいろ書きましたが、基本的にしっかりとした体力が必要です。息切れしている暇はありませんから。
最後にこんな言葉を紹介します。
「多数の人間と戦う時は、こちらが待っていてはいけない。敵が四方から攻めかかってきても、むしろ、こちらから、一方へ追い回す心で向かっていくべきである。待っていてはいけない。こちらから強く切り込み、敵の集団を追いくずし、切りくずしていくのである」。
「切る」という言葉が入っていますから、剣術のことだとわかると思います。宮本武蔵の五輪書に出てくる言葉を現代語に直したものです。剣の場合には一人を切り倒せば確実に相手の数は一人減っていきます。真偽は不明ですが、吉岡一門の多数との壮絶な斬り合いが本当にあったとしたなら、この教えはより実践的で血生臭いものになります。合気道の世界とはかけ離れたものですが、教えの一部に先程の私の解釈と同じものがあるようです。
師範 白井敬二
枇杷島スポーツセンターの入会者は基本的に名古屋市役所職員、家族（子どもは小５くらいから）、OB・OGです。北スポーツセンターの参加者は一般市民も可能です。
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